京都こみち日記

こみちを歩く こみちに迷う 日々のこと

11弦ギター『月光の森』辻幹雄 

 辻さんの11弦ギターの音波を浴びることは、物理的治療でもあると感じる。20年間このCDを聴いていて、具合の悪かった体調が快復してきたという体験談が普通のことに思える。今回は民家の一室での演奏会だったので、それこそかぶりつきで拝聴した。いや、聴くだけではなく、まさに音の波を身体に浴びる感覚。演奏が始まると、目を閉じて静かに呼吸する。すると身体がだんだん揺れてくる。まるで浜の浅瀬に寝そべって、全身をさざ波に打たれているかのように。身一つを投げ出して、ゆるい渓流下りをしているかのように。森の中で過ごした明け方に、冷たい霧状の空気と日の出の光が同時に頬に当たった時のように。身体や心のコリ固まりが、その音の波の振動で、少しずつ少しずつほぐれてゆく。ほどけてゆく。その様(さま)はもちろん目に見えるわけではないし、言葉で説明できるわけでもない。でも確かに何かが一旦死んで生まれ変わり、治癒していくように感じられる。サンキウ。
 雨宝院の御衣黄桜とえぞにしき椿。
 音にしろ植物にしろ動物にしろ人間にしろ、生き物が放つ生(なま)の波(エネルギー)は、熱をもっている。