京都こみち日記

こみちを歩く こみちに迷う 日々のこと

 笛の響き

 NHKのリコーダーのテキストのあとがきに、三島由紀夫『英霊の声』からの抜粋文が紹介されていた。
 三島由紀夫の著作本は題名はいくつか覚えているが読んだ事はない。いや、教科書に載ってたか?・・どうも自衛隊の扮装で自決したマッチョで●●コンの人というイメージが強く、なんとなく敬遠していたのかもしれない。すまなかった。この一文からは、ひじょうに繊細な精神が伺えて、わたくしも聴いてみたい、こんなふうに吹いてみたい、、という気持ちが湧く。

石笛の音(ね)は、きいたことのない人にはわかるまいが、心魂をゆるがすような神々しい響きを持っている。清澄そのものかと思うと、その底に玉(ぎょく)のような温かい不透明な澱みがある。肺腑を貫くようであって、同時に、春風駘蕩たる風情に充ちている。古代の湖の底をのぞいて、そこに魚族(いろくず)や藻草(もぐさ)のすがたを透かし見るような心地がする。またあるいは、千丈の井戸の奥底にきらめく清水(しみず)に向って、声を発して戻ってきた谺(こだま)をきくような心地がする。この笛の吹奏がはじめると、私はいつも、眠っていた自分の魂が呼びさまされるように感じるのである。