京都こみち日記

こみちを歩く こみちに迷う 日々のこと

『雪の練習生』多和田葉子著

雪の練習生 「いしいしんじごはん日記」ブログで触れられていたので、この著者の本は初めてなのだが、読んだ。
 
 久々に文学作品を読んだ感あり。読み応えがあった。表紙の絵のとおり、シロクマの三代記で、彼女らはシロクマだが人間社会で労働をしている。切なさとユーモアとシリアスさのバランスが絶妙な小説だった。
 
 最近はゲラゲラ笑いながら、70年代以降生まれの作家の小説をたまに読みとばしていたのだが、やはり自分が60年代生まれだからか、60年代生まれの作家の作品を読むと、胸にズシーンとくるものがある。同じ人間の抱く煩悩の一例を描くにしても、描き方が丁寧で繊細で美しい。題材に選んでくる煩悩の種類に、胸をうたれる。多和田さんも1960年生まれ。

 同年代の人たちに比べて色々な経験値が比較的低く、人の心の機敏などについて共感することが苦手で、また、めんどうな義理や、ややこしい情(じょう)には共感したいとも思っていない大雑把なわたくしだが、この同年代の作家たちの感性の繊細さ(傷つきやすいとかではなく)や柔軟さには、とてもあこがれを感じるし、この緻密な表現力、判断力を尊敬する。