京都こみち日記

こみちを歩く こみちに迷う 日々のこと

楽器がどうした

 ブライトンホテルのロビーで毎夏毎夜行われている京都リレー音楽祭にて、中丸三千繪さんという、世界で活躍する声楽家の歌(オペラ、歌曲)を聴く。高尚なようだが、無料である。
 第一声から、これが「鈴のなるような」と表現される声か!とその音波の美しさに驚いたが、次第に鈴どころか、どんな楽器でもかなわないと思うほど、その声の奥行きや広がり、鼓膜に感じる響きの心地よさに感動した〜。人間の喉、いや身体全体が最高級の楽器だと感じた。わたくしは、中丸さんの正面ではなく、後頭頂部を見る場所で聴いていたのだが、場所など関係なく、会場全体を隅々まで包み込むような物凄い迫力と緻密さをもちあわせた美声だった。
 楽器を選ぶ時に、気軽に持ち歩けて、いつでもどこでも誰とでも一人でもタダ(安価)で楽しめると考えて篠笛を選んだのだが、なんのこたぁない、わたくしにもタダで最高級の楽器、喉があったのだ。中丸さんの声を聴いているだけで、なんだか自分の喉や身体までもが最高の楽器のような気がしてきた。厚かましいけど。
 それからもう一つ驚いたのは、聴衆の中から「ブラボゥ!」というかけ声があがったことだ。その声の主をチラッと見ると、ただ涼みに来ただけのような風情の、ばりばりの日本人高齢男性だった。なんせ「待ってましたッ」とか「松島やッ」というかけ声(歌舞伎)を耳にして青春時代を過ごしたので、人生で初めてライブで日本人による「ブラボゥ」を聴いて、微妙な違和感と新鮮さを味わったのだった。