恐怖のヒト
ごとさん宅には夫妻の仕事柄、芸術家の出入りが多かったようだ。中には、幼児のわたくしの目には、怖い、という印象しか残っていない、しかし立派な御方もおられた。
書家の通称、とあきさんのおっちゃんである。本名は豊秋さん(とよあきさん)である。
彼は、いつもよそゆきの着物を着て、真っ白な足袋をはいていた。(他所を訪問しているんやし当然か)
そして、頭頂部は禿げているのだが、頭の左右の白髪は残っており、そこから下へもみあげ、あごひげと続き、そのあごひげが山羊以上にびよーっと立派に伸びている。確か胸くらいまで伸びていたような気がする。そのムダな長さと白さが、怖かった。
おまけに事あるごとにうおー、ほ、ほ、ほ、ほとこれまたムダに、静かな地鳴りのごとく笑うのだ。・・・怖かった。
ごとさん宅にとあきさんのおっちゃんの姿を見る度に、幼児のわたくしは恐怖の余り挨拶もせず、こそーっと裏の自宅へ逃げ帰っていた。
しかしお年玉はきちんとお座りしてもらったような気もする。