京都こみち日記

こみちを歩く こみちに迷う 日々のこと

アイちゃん記

 アイちゃんは近所の料理屋さんの飼い犬で、白い雑種の大型犬である。名は女の子らしく愛なのだが、性格はキレキャラで、知らない人や犬が嫌いというか怖いのか、噛み付いてしまうこともあった。しかしゴン太のことは大層気にいってくれて、たまに家から脱走して、散歩中のゴン太の所にダッシュで遊びに来たりしていた。ゴン太に同行しているわたくしは、二匹の力の強い犬たちをそれぞれの自宅まで送迎するのに難儀したが、お蔭で上腕二頭筋(力こぶ)が発達した。
 アイちゃんは料理屋さんの犬ゆえ、いつもごちそうを食べているので肥満体である。しかしゴン太はその豊満な肉体が大好きらしく、よく体当たりしてジャレついていた。アイちゃんも、よその犬が体当たりでもしようものなら三倍にして返したるで、という性格と体格だったが、ちょうど息子か孫の年齢位のゴン太にだけは、好きなようにさせてくれた。しかしそのごちそうと肥満が祟って糖尿病になってしまったのか、昨春辺りに両目が見えなくなってしまった。それでも暑かった夏の間に糖質制限をして痩せて、飼い主さんに早朝の散歩に連れてもらってゆっくりと歩いていた。いつものようにゴン太と一緒にガムを食べさせたある初秋の朝に、アイちゃん、前はキレキャラやったのに優しい顔になったなぁと、わたくしは感じた。その後三日間の連休中に、アイちゃんは逝ってしまった。その三日間ほどだけ、もう十分ごちそうをいただきましたので、と言わんばかりに物を食べなくなり、穏やかな表情で目を閉じていたそうだ。
 アイちゃん、ゴンと仲良くしてくれてありがとう。ゴンは今もアイちゃんがいつも待っていてくれた店先の前で、一瞬立ち止まるよ。